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六萬部寺(ろくまんべじ)

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六萬部寺は「源頼朝が源氏再興を祈念して六萬部の経を埋納した塚」と伝承されていたことに因んで命名されたとされるが、この経塚は元々古墳であったことが現在では知られている。
柏谷横穴群が近くにあるが、その中にあって円墳が存在していたことは歴史的に見て貴重である。

さて、鎌倉時代よりずっと後世の出来事だが、六萬部寺は「向原付城」とも呼ばれ、1590年の小田原の役の中で繰り広げられた韮山城攻防戦の際に、豊臣方によって築かれた付城の一つであった。中川秀政勢2000が布陣したとされる。

韮山城の付城には、上山田山付城や本立寺付城など、優れた遺構を残す山上の陣城群があるが、向原付城は平地の中の低い独立丘陵で、地勢もなだらかで韮山城まで3km程も離れている。これらの諸点で他の付城とはかなり性格が異なっており、前線に対する後方支援拠点等の、他の付城とは異なる役目を負っていたのであろう。

城の中心部とされる場所には現在六萬部寺が建っており、明確な遺構は確認できない。往時は低湿地帯に囲まれた広い独立丘陵地で、あまり大きな普請は必要なかったのかもしれない。寺北側を通る道路の脇に、土塁や虎口状の地形があるが、後世の改変の可能性も高く、遺構とはにわかには判断しがたい。

私は三島・函南の神社仏閣にある大樹を訪ねているが、秀吉軍により焼失させられて由緒が分らなくなってしまった神社仏閣がおびただしい数に上ることを目にしている。主人の織田信長公の教えに倣ったものと考えていたが、最近では数万の兵力を維持する兵糧自炊のための敵地での現地調達ではなかったかと考えるようになっている。

最近ではあるが、神社仏閣を平気で薪にしてしまう悪行とは裏腹の古文書が一般公開されている。三島市郷土資料館は中世の史料「豊臣秀吉禁制　天正十八年四月付　伊豆国九ケ所宛」を購入し、一般公開している。
天下統一を目指した豊臣秀吉が天正１８年（１５９０年）の小田原攻めに際し、現在の三島市中郷地区と函南町北部地区に発給した書状で、「小田原合戦に遭遇した三島の村落の様子をうかがい知る大変貴重な文書」（同資料館）という。

　書状は縦４５センチ、横６５センチの大きさ。「肥田郷、塚本郷、間宮郷、澤郷、安久郷、多呂郷、北澤郷、中嶋郷、梅縄村　以上九ケ所」とあり、現在も三島、函南に残る地名が明記されている。末尾には秀吉の朱印が残る。
　内容は「農民はこの地に戻って生活すること」軍勢は農民に乱暴や略奪行為をしてならず、背いた者は厳罰にする―など。箇条書きのくだりには、戦国時代に行われた斬罪「一銭切」の文言も読み取れる。

　鈴木敏中館長は「村落の住民は豊臣軍の侵攻を受けて山などに避難し、禁制を入手して帰村できた、と推察される。４月という時期も面白く、秀吉の占領地政策も知ることができる」と話した。
　禁制は支配者が寺社や民衆に出した書状で、軍勢の行動を規制し、治安維持を保障した。農民たちにとっては郷や村が荒らされないための防御策だった。秀吉は関東各地に数多く発給し、伊豆国に関しては１７点が確認されている。今回はそのうちの１点という。

文章は直ぐ歴史資料として信じられ、秀吉は領民の味方だったと歴史に刻まれて行く。さんざ伊豆北円に多大な災禍を与えながら、古文書を見た現代人は「秀吉の占領地政策も知ることができる」と断じている。

さて、現在六萬部寺は日蓮宗の寺となっている。山門脇の石塔には「南無妙法蓮華経」・「王城山」・「法界萬霊」
・「六萬部寺」と記され、経塚は山門奥に祀られている。

六萬部寺の山門

山門脇の石塔

経塚と称されて来た円墳

六萬部寺の本堂としだれ桜

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